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被災地で祈った3人の記録。私たちには何ができるのか。

2011年12月25日

 『私たちはいつまでも忘れない』は、ライター木戸満知子さんの著書です。東日本大震災から5カ月に満たない津波被災地を、著者を含む3人の関東地方在住者が巡りました。彼らの目的は何だったのでしょう。実際に目にしたもの、彼らの中に残ったもの、そして芽生えたものは何だったのでしょうか。

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 3月11日、私はただ、街を田畑を飲み込んでいく津波の映像を見ていました。恐ろしくて体は震えるのに、目をそむけることもできなかった。何が起こったのか「知らない」では済まされないと感じました。同時に、たとえようもない無力感も感じていました。災害に対する無力。被災された方々に対する無力。何も失わなかった者が、何もかも失った人に掛けられることばなどない。私には何もできないと。

 本書に登場する3人は、無力感を感じながらも「何かできること」を探します。そして「被災地に立ち、祈りをささげること」を思い立ちます。「できる」と思ったというより、ただそうせずにはいられませんでした。たまたま家族の理解もあり、それが実現できる環境にもありました。

 3人が被災地に携えていったものは「ことば」ではありません。
 東京で創作舞踏の会「ひめしゃら塾」を主宰する野口祥子さん(当時66)は、津波被災地を巡り舞いをささげることで、亡くなった方々の魂に祈り、その魂を体現し、残された方々の心も少しでも鎮められたらと考えました。少々無謀ともいえる計画だったかもしれません。けれど、彼女はどうしても実現したいと願った。その思いの強さが、実現する手立てを引き寄せていきました。


「鎮魂の祈りの旅」が実現。そこで3人が見たもの

 まず、彼女が講師を務めるダンス・ワークショップに通う山本佳克さん(当時51)が同行を約束してくれます。この旅までに3回被災地を巡った彼は、車の提供と運転、必要な機材の調達、公演場所、宿泊場所の確認と計画など、野口さんの希望をかなえるための手立てをすっかり整えてくれました。そしてもうひとり、木戸満知子さん(当時61)は、不思議な縁で野口さんと出会い、自分もぜひ祈りたいと旅に同行し、この本を著すことになりました。

 5ヶ月たってなお、3人が目にした津波被災地の傷痕は生々しく痛々しく、仮設住宅に暮らす方々の悲しみは癒えず、生活の不安は解消されません。けれど読み進むうち、「それでも人は生きている」「生きられる」「生きなければならない」、そんな言葉が頭の中でこだましていました。
 本書には、3人が被災地で出会ったステキな方たちがたくさん登場します。自分自身がどんなに悲しくつらくても、他人に親切にできる。温かいほほ笑みを投げかけることができる。そんな人間の気高さは、かえって訪れた3人を力づけてくれました。

 印象的だったのは、3人が巡るさまざまな避難所で、そこの核となる人物の人となりによって、それぞれの避難所に性格のようなものが出来上がっていることでした。温かかったり、落ち着いていたり、少しよそよそしかったり。コミュニティというものは、制度ではなく「人」によって成り立つのだと改めて感じました。


3人に「できた」こと。私たちに「できる」こと

 木戸さんは、希望する被災者に、自らが編み出した、やさしくさする、なぜる、手を当てるという「結い気マッサージュ」を黙々と行うことで、彼らの心からあふれ出すことばを聞き、受け止めました。野口さん、山本さんの踊りを見、木戸さんの「マッサージュ」を受けた方たちは、多くの感謝のことばを返してくれました。過剰なことばを投げかけなかったことで、「ただ祈るために来た」ということが伝わったのかもしれません。3人はことばを使わずに、被災された方々に寄り添うことができたのだと思います。それは、私たち被災地外の人間にできる最大限のことだったのではないでしょうか。

 本書で、震災5か月後の被災地の様子を知り、半年たてば半年後の、1年たてば1年後の苦悩と困難が次々と現れるのだろうということも想像できました。「震災」は形を変えながら、ずっと被災地に存在し続けるのです。
 「私たちは、これからも何とか生きていきます。どうか、私たちのことを忘れないでください」。これは、3人が出会った被災された方のことばです。「私たちは、あなたたちのことをいつまでも忘れません。私たちにできることを精一杯さがしながら、あなたたちとともに歩きます」と木戸さんは書いています。
 私たちにも「忘れない」ということが「できる」のです。

『私たちはいつまでも忘れない』木戸満知子著(本の泉社、税込1,300円)。本の泉社のホームページhttp://www.honnoizumi.co.jpから購入できます。
(松井亜希子)

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