もうすぐ我が家というとき、携帯が鳴った。
「コンビニで新聞買ってきて」と夫からだった。
「いやだ」とすかさず断る。
両手には大根やら、よく熟した路地トマトやら、さっき八百屋で買った野菜がいっぱい。
夫はメールも送信していた。
「サミットについて調べたいから新聞買ってきて」
そんな質問をしそうな上の娘は私と一緒だ。
1年生の下の娘はそんな宿題も出ないだろうし…。
帰宅すると、夫は電話中。
ハキハキした女性の声が電話からもれてくる。
「誰?どうしたの?」
「〇〇新聞の記者。△△さんから、さっき電話があって、
サミットの首脳たちの“ファッションチェック”頼まれたんだけどさぁ~。
8時前には終わらせなきゃいけないんだよ」
今は7時前だ…。
夫は数ヶ月前からフリーになったメンズのデザイナーだ。
〇〇新聞の記者に言われたとおり、PCを検索。
サミット関連ニュースの動画をチェック。
携帯が鳴った。また記者からだ。
彼女の声は私にまで聞こえる。
「日本放送でもうすぐ、始まります。見てください」
各国首脳が記念撮影のため集まり、並ぶ…
しかし、一瞬で終わる。
その間に私はPCの動画をチェック。
慌ててチャンネルを切り替える夫。
ちょうど7時のニュースで報道されていた。
メモをとりながら、必死な夫。
私は夕食の支度にとりかかる。
また携帯が鳴った。彼女からだ。
まだ、30分とたっていない。
明日の新聞に載せるので、彼女も必死なのだろう。
「はい。そうですね。うん、カジュアルかな…」
夫の歯切れの悪い解説にしびれをきらしているのだろう、
誘導的な質問をしているのがキッチンにいる私にも伝わってくる。
私もしびれをきらし、夫の元へ行き、夫のメモに書き込む。
「もっと大きなアクセサリーがあればポイントになった。」
「××は顔や雰囲気が地味だから、
もっとコントラストのあるコーディネイトでインパクトを与えたほうがいい」
「□□はマジメだいううわさのわりには…」などなど。
夫は私のメモ書きを読み始めた。
私は、まだ、テレビに映っている各国の首脳に釘付けになりながら、メモを取っていく。
夫も落ち着いてきたのか、ところどころに今のトレンドを交えながら話し始めた。
電話を切って、大きくため息をつく夫に
「ね、LETSに通った甲斐あったでしょ?ギャラは私にちょうだいね」
と、途中で投げ出した夕食の支度にとりかかった。
さて、どんな記事に彼女が仕立てるのか…。
あいはらこずえ

