冷房の効いていない蒸し暑い体育館で講演会はもう始まっていた。
400人近くの人が彼女の話に耳を傾けていた。
空いている席を探し、ひとまず座った。
今朝も早かったし、この数日寝不足だし、ちょっとだけ寝ちゃおうと思い目を閉じた。
話しているのは“土佐いく子”先生。
ベタベタの関西弁が体育館に響いていた。
東京の学童保育研究集会の記念講演なのだ。
「明日に生きるこどもたちを信じて」
~子どもたちの心の声が聞こえますか~
というテーマを彼女の推奨する子どもたちの「作文」を基に講演していた。
関西人ならではのお笑いセンスに思わず目をあけ、資料に目を通した。
この3月まで教壇に立ち、今は大学の講師と、
小学校での専門員として活躍されているらしい。
彼女、お手製の資料とレジメは、PCで打たれたものでなく、
直筆をコピーしたものだった。
その少しクセのある文字は、今だに年賀状のやりとりをしている
私の小学校の時の担任の字によく似ていた。
子どもが書いた作文を例にあげ、話しはすすんでいった。
文章として上手いとかいうよりも、
書いた子どもの息づかいが聞こえてきそうな、リアリティのある作文が多かった。
「こんなこと書いた子もおりましたぁ。資料には書いてませんで…」と
手元の原稿を読み上げた…
「昨日、8ヶ月の妹が泣き止まなかった。
ミルクの作り方がわからへんかったし、
ずっと抱いていた。
抱いてたら、10時ころやっと寝た。
寝たから布団におろしたら、また泣き出した。
背中をずーとトントンしてやった。」
何人かの人が、汗をふくタオルの行く先が、目元になった。
「こんな子もおりますねん。
8ヶ月の赤ん坊がいても、10時すぎまで、
おかあさんが家に帰ってけぇへん、いや帰れへん家があるねんな。
この子、よぉ、がんばってましたわ」
鼻をすする音があちこちから聞こえた。
私も慌てて、ハンカチを探そうとバッグの中に手をつっこんだ…。
あいはらこずえ
