駅の改札を出たとき、
「ご飯を炊いておいてね」と娘に電話をし忘れたことに気づいた。
夕食は親子丼にするつもりだったのに…
「つけ麺にしよう!」と慌ててスーパーに駆け込んだ。
いつも通り、買う予定のなかった食材の他、シャンプーまで買いこんでしまった。
ターミナルに停車していたバスは座れそうになかったので1台待った。
次に来たバスの前から2番目の座席に座り、荷物を足元に置いた。
なかなか出発しないバスにおじいさんが乗り込み、私の横に立った。
向かい側、ベンチシートの優先席に座る若者たちは席を立つ気配もない。
「チェッ」心の中で舌打ちをして、荷物を手に取った。
「どうぞ」席を譲ろうとすると…
「いや。いい」とおじいさん。
「いえ、どうぞ」と再度、譲ると
「“いい”って言ってんだろう!」と怒鳴り返すジジィ。
「ああ、そうですか」わたしもムッとして座った。
乗客のみんなが注目している…ような気がした。
しばらくするとジジィは私の真横から斜め前あたりに移動してきた。
「あのさぁ~」とジジィ。
「はい」と顔を向けると…
「席を譲られたのは初めてだよ」と追い討ちをかけてきた。
「すみません」。それしか言えなかった。
私は恥かしさを誤魔化すため、携帯を取り出し、メールを打ち始めた。
ジジィは足をさすったり、曲げたりし始めた。
(譲ろうかなぁ~。いや、あんだけムゲに断られたしな…。いや…)
そんな葛藤の最中、ジジィが話しかけてきた。
「ねぇ」。
(やっぱり譲ってほしいんじゃん!)
腰を浮かし、立とうとしたときジジィが指さした。
“携帯の電源を切りましょう”のシールを。
「見えない?守らない人多いんだよね~」と。
そう。確かに多い。
いつもいつも注意してやろうと喉元までその言葉が出ているのだ。
まさか!まさかだ!この私が注意されるなんて!!!!
今度こそ、今度こそ本当に乗客全員が私に注目している…。
向かい側は優先席なのだから、電源OFFはあたりまえだ。
うかつだった…。
でも、でも、なんてこったぁ~!
「すみません」とまた謝り、急いで携帯をしまった。
今すぐ降りたい!次の停留所で降りたい!
でも、お腹をすかせ娘たちが待っている…
そんな葛藤の中、またジジィが話しかけてきた。
(今度は何だよ!)と思い顔をあげると…
「席、譲ってくれてありがとう」と言って降りて行った。
危なっかしく、道路を横切るその姿をバスの中から
(気をつけてね、ジジィ。ジジィなんだから!)と見送った。
あいはらこずえ


コメント (1)
今回は、Winnerはこずえさんでしょ。じじいにとってもまんざらでない、バスの中での一時だったと確信します。奴にとっても恥ずかしいやら、照れるやら、って感じでしょ?!きっと。
投稿者: ぶらぴ! | 2008年08月22日 09:57
日時: 2008年08月22日 09:57